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2013.12.12

国家秘密法について

2年前にボクが書いた連載コラム(月刊『ガバナンス』20121月号、ぎょうせい)です。当時の民主党政権の下で、秘密保護法制の検討が行われていました。そして、その問題点は今回成立した法律にも引き継がれています。こうした経緯を振り返ると、民主党を反対の立場とみるのは、ちょいと違う。そして、メディアや弁護士会等だけでなく自分自身を含めて、反対する立場は何もできないまま今日に至ったことを、猛省しなければなりません。

秘密保護法制

 このほど国は秘密保全法制を整備し、12年の通常国会に法案を提出する意向を固めた。かつて、自民党の中曽根内閣が「国家秘密法案」を提出したことがある。しかし、世論やメディアの強い反対のため廃案になり、以降は同様の法案は提出されていない。自民党から民主党への政権交代を果たしたにもかかわらず、「国家秘密法案」と同様の危険がある法案を、今なぜ提出するのか。一方、情報公開法改正案は継続審議のままであり、「知る権利」の行方に暗雲が立ち込めている。 

■情報流出事件がきっかけ

 118月、「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」(以下、「有識者会議」)が報告書をまとめて、秘密保全法制の「早期の法制化」を提言した。有識者会議は、首相官邸におかれた政策会議「政府における情報保全に関する検討委員会」(以下、「検討委員会」)が「各界の有識者から御意見をいただく」ために設けた組織だ。
 検討委員会及び有識者会議を設置するきっかけになったのは、10年に相次いだ情報流出事件である。
 国内では、1011月に尖閣諸島沖の中国漁船映像流出事件が起きた。また、その直前の10月には警視庁公安部が保有する国際テロ関連文書がインターネット上に流出した。そして、国外ではウィキリークスが加国政府の秘密情報を独自に入手し、次々の各国の秘密を暴露していた。
 内外でリークが大きな注目を集める中で、検討委員会及び有識者会議は、1012月に設置された。
 なお、裁判所によるインカメラ審理を含んだ情報公開法の抜本的な改正を、内閣府の「行政透明化検討チーム」が提案したのが108月である。そして、114月には、同チームの報告に基づく情報公開法改正案が国会に提出された。
 このような流れの中に、秘密保全法制の突然の登場を位置づけると、別の意味が見えてくるかもしれない。国内で相次いだ情報流出事件が、情報公開法改正への抵抗勢力の仕業だとまで言わない。しかし、それをきっかけにした秘密保全法制の登場は、彼らにとって望ましい展開だ。それによって、情報公開法改正にくさびを打ち込むことができるからだ。

■「特別秘密」のあいまいさ

 有識者会議の報告書はインターネットで公開されているので、詳細な内容はそれを参照してほしい*。ここでは、主要な問題点の指摘にとどめたい。
 秘密保護法制と聞いて誰もがいだくのが、そもそも「秘密」とは何かという疑問である。これについて、有識者会議は「特別秘密」という概念をあげている。ところが、この定義がきわめてあいまいなのだ。
 有識者会議によれば「行政機関等が保有する秘密情報の中でも、国の存立にとって重要なもの」だけが「特別秘密」である。そして、「①国の安全、②外交、③公共の安全及び秩序の維持」の3分野のみを対象とするという。
 さらに、「3分野のいずれかに属する事項であっても、内容によりその重要度には差異がある」ことから、「厳格な保全措置の対象とする情報は特に秘匿の必要性が高いものに限られるべきである」とする。そして、「自衛隊法の防衛秘密の仕組みと同様に、特別秘密に該当し得る事項を別表等であらかじめ具体的に列挙した上で、高度の秘匿の必要性が認められる情報に限定する」という。
 しかし、自衛隊法の防衛秘密の別表には、たとえば「自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究」、「防衛に関し収集した電波情報、画像情報その他の重要な情報」などと記載されるだけだ。有識者会議は、このどこをみて「限定」されているというのだろうか。

■刑罰がもたらす萎縮効果
 「特別秘密」の範囲や定義が問題になるのは、秘密保護法制が刑罰規定を設けているからだ。たとえば、公務員が「特別秘密」を故意に漏えいした場合や一般人が不法に取得した場合、有識者会議は「本法制における刑の上限を懲役10年とすることも考えられる」としている。公務員の守秘義務違反が懲役1年以下であることを考えると、きわめて重い刑罰である。
 それにもかかわらず犯罪の構成要件の一つである「特別秘密」があいまいでは、これが濫用されるおそれもある。そして、それ以上に危惧すべきが公務員に及ぼす「委縮効果」である。処罰への過剰反応から、少なくとも上記の3分野に従事する公務員は、情報公開に対して消極的になるだろう。
 「委縮効果」の弊害は、情報公開制度の解釈運用にとどまらない。とりわけ、報道機関の取材に対する影響が大きいと思われる。たとえば、新聞、雑誌、テレビの取材記者は、公務員とのやり取りを通じてさまざまな情報を取得する。取材テーマに直接関わるものだけでなく、それに関するヒントやきっかけを得る取材も少なくないという。
 しかし、秘密保全法制が導入され、「特別秘密」の漏えいが厳しく取り締まられることになれば、ほとんどの公務員は何も話さないだけでなく、記者との接触自体も避けるようになるだろう。すでに個人情報保護への過剰反応によって、報道機関による取材がやりづらくなっている。秘密保全法制は、さらに取材の自由をおびやかすおそれが強い。
 そのため新聞各紙は社説の中で、秘密保護法制を厳しく批判し、反対の論陣を張り始めた。また、日本新聞協会も1111月に意見書を内閣官房長官に提出した。その中で、「報道機関の取材が漏えいの『教唆』『そそのかし』と判断される可能性も捨てきれない。…運用次第では通常の取材活動も罪に問われかねない。」と指摘している。

■「適性評価」の危うさ
 秘密保全法制の問題点として、もう一つ注目すべきは、「特別秘密を取り扱う者自体の管理を徹底する」ために「適性評価制度」を導入することだ。「特別秘密」のあいまいさや刑罰による萎縮効果という論点は、かつて廃案に追い込まれた国家秘密法案とほぼ同じだ。しかし、「適性評価制度」はまったく新しい論点である。
 これについて、有識者会議は「特別秘密」と取り扱う者(対象者)について、「日ごろの行いや取り巻く環境を調査し、対象者自身が秘密を漏えいするリスクや、対象者が外部からの漏えいの働きかけに応ずるリスクの程度を評価することにより秘密情報を取り扱う適性を有するかを判断する制度」と説明している。端的にいえば、身上調査を徹底することで秘密保全をはかる趣旨である。
 これは3分野で働く公務員のプライバシーを侵害するおそれが強い。有識者会議は「適性評価」の、調査事項として「①人定事項(氏名、生年月日、住所歴、国籍(帰化情報を含む。)、本籍、親族等)、②学歴・職歴、③我が国の利益を害する活動(暴力的な政府転覆活動、外国情報機関による情報収集活動、テロリズム等)への関与、④外国への渡航歴、⑤犯罪歴、⑥懲戒処分歴、⑦信用状態、⑧薬物・アルコールの影響、⑨精神の問題に係る通院歴、⑩秘密情報の取扱いに係る非違歴」をあげている。
 秘密保全を理由に、一人ひとりの公務員のセンシティブ情報を徹底的に収集することは、また違う意味での委縮効果を及ぼすはずだ。ミシェル・フーコーのいうパノプティコン(一望で監視できる監獄)が、役所の中に出現するかもしれない。
 秘密保全法制は情報公開を後退させるだけでなく、当初は公務員を対象とすることで、監視社会への世間の期待値を高めていく。こんな稀代の悪法を、情報公開法の改正をめざすべき民主党政権が提出するとは、まったく理解に苦しむ。

―了―

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