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2006.06.01

帰ってくる団塊世代

 「2007年問題」について最近書いた文章を載せます。私が理事・主任研究員をつとめるNPO「参加型システム研究所」のニュースレターに掲載したものです。
 小論文の出題でいうと、「以下の文章を読み、2007年問題に関する筆者の問題提起について、あなた自身の考えを100字以内で自由に述べなさい」という感じになるでしょう。受験生の皆さん、解いてみてください。
 

 団塊世代(1947年~1949年生まれ)が定年で大量に離職し、社会に大きな影響を与えるとされるのが「2007年問題」である。実際には、改正「高年齢者雇用安定法」(企業に対して段階的に65歳までの雇用を義務づける法律)が4月に施行され、大企業を中心に定年延長や再雇用制度の導入が進んでいる。団塊世代が直ちに地域社会にあふれるわけではない。しかし、いずれは離職して団塊世代は地域社会に必ず帰ってくる。また、自発的に早期に離職して、第二の人生を選択する人も少なくない。

 現段階で全人口の約5%を占める団塊世代には、規模の大きさゆえに「熱く温かなまなざし」が注がれている。それは、平たく言うならば、市場・顧客としての期待と労働力としての期待である。地域社会における彼らへの期待は後者であり、企業活動を通じて培ってきた専門的な知識・技能を活用したいとの思いが「熱く温かなまなざし」に反映されている。マスコミも社説や記事で「会社人間から社会人間へ」と団塊世代を持ち上げる。めでたいことばかりのようだが、地域社会は帰ってくる団塊世代を「おかえりなさい」と無邪気に受け容れることができるのだろうか?

団塊世代とまとめて表現してきたが、とりわけ問題となるのは、何の疑いも持たず会社人間を貫いてきた男性である。彼らの中にも現役世代から、または離職後に見事な「変身」をとげて、地域社会の地道な活動を続けてきた人も少なくない。しかし、朝日新聞で寺島実郎氏が鋭く指摘した団塊世代の「経済(拝金)主義」「私生活主義」を総括・克服しないまま、地域社会に帰ってくる男性もいるはずだ。私たちは、彼らとどう向き合っていくべきなのだろうか?

 私自身にも、彼らと向き合う難しさを実感した経験がたくさんある。たとえば、情報公開制度を活用する市民の中には、税金のムダ使いを追及する人たちがいる。彼らの多くは年配の男性で、自分たちが働いてきた会社に比べて役所の金の使い方が非効率的なことに憤り、それが膨大な会計資料を公開させるエネルギーの源となっている。大切な市民活動ではあるが、寺島氏のいう「経済(拝金)主義」だけが基軸となっていたことにいつも違和感を覚えていた。

 地域社会には金に換えがたい価値がたくさんある。たとえば、高齢者の移動の自由を確保するために、過疎地に暮らす人の健康と命を守るために、赤字で一見すると非効率な公共交通や公立病院・診療所を維持しなければならない場合もあるはずだ。公共的な価値を実現するためには、説明と同意(公開と参加)を尽くして赤字・非効率を市民が甘受することもある。しかし、残念なことに、いずれも税金のムダ使いとしか見ない人が少なくない。

 マスコミはまったく無責任に「会社人間から社会人間へ」というコピーをばら撒くが、現実はそんなに簡単ではない。会社と社会とでは、その基盤にある「原理」が大きく異なるからだ。私自身の経験で例示したように、会社は効率性という画一的な価値と方法を追求するが、地域社会で実現すべき価値も方法もきわめて多様である。これを認識して、相手と場合に応じて自分自身でしなやかに考え、行動できるように「変身」できなければ、彼らは地域社会に背を向けられるだろう。

 ところが、流行に敏感な自治体が主催するシニア向け講座は、彼らのキャリアを地域社会にどう生かすかという視点のものばかりである。「変身」には不安や戸惑いが多いから、不変の過去(キャリア)に依存することは精神的には楽だろう。しかし、それが地域社会やそこで暮らす人たちとのミスマッチを拡大する「不幸」を招くことに、いいかげん主催者は気づくべきである。まずは、彼らは、自分が寝に帰るだけだった地域社会のことをもっと詳しく知らなければならない。そして、そこで抱えている問題が多様で、解決が容易でないことを実感しなければならない。自宅や教室に引きこもり自己を肥大化させるのでなく、地域社会での多様な経験を通じて創造的に人生をリセットできるような講座でなければ、それこそ税金のムダ使いである。

団塊世代が地域社会に帰ってくることを拒んでいるのではない。マスコミや自治体が「熱く温かなまなざし」一色であることに強い危惧をおぼえて、一石を投じたかったのだ。地域社会は多様である。少し冷たいまなざしとも向き合い、自らのあり方を振り返るくらいの「度量」がなければやっていけない。もちろん、自戒を込めた言葉である。

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