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2006.02.06

コラム 地域社会は犯罪とどう向き合うか

 昨年起きた奈良市の女児誘拐殺害事件は、子どもに対する性犯罪歴のある容疑者が逮捕されたことから、情報公開と個人情報保護にかかわる難問を社会に投げかけた。それは、性犯罪歴のある人物(性犯罪歴者)の居住地把握とその情報の公開である。

 報道によれば、容疑者には子どもに対する性犯罪歴が二回あった。警察庁には「性犯罪前歴者名簿(年少者対象)」があるが、彼の情報はこのデータベースに載っていたはずだ。しかし、そこに彼の最新・正確な居住地が記載されていなかったため、当初、捜査は難航した。たまたま彼が直近に起こした交通事故の記録から、事件現場付近での彼の居住が判明し、捜査対象に浮上したのである。

 このほど、特定の性犯罪者について出所後の居住地情報を法務省が警察庁に提供することが合意され、今年6月から運用されることになった。きっかけになったのが奈良の事件である。対象となる性犯罪は婦女暴行、強盗婦女暴行、わいせつ目的の略取・誘拐、強制わいせつの4つで、対象となる出所者は年間百数十人になるという。この情報提供によって警察庁のデータベースは更新され、事件現場周辺に居住する性犯罪例のある人物を瞬時にピックアップすることが可能になる。

ただし、法務省が提供するのは戸籍に添付された附票(住民票と同じ内容で、転居のたびに新しいものが追加される)と思われる。奈良の事件のように住民票を置いたまま他の場所に居住している場合、その情報提供がどこまで有効なのか疑問である。それはともかく、今回の合意によって子どもの性犯罪が起きた場合の捜査が多少は容易になった面もある。また、警察による居住地情報の把握が性犯罪歴者に再犯の抑止効果を及ぼすことを期待する人もいるだろう。一件落着としたいところだが、そうはいくまい。

 いま社会は災害・犯罪に対する不安が増大し、過度に安全・安心を求める傾向にある。そのため、性犯罪歴者の居住地把握にとどまらず、その情報の公開を求める動きが強くなるおそれがある。周知のように、米国の各州にはメーガン法と総称される法律がある。性性犯罪歴者に関する情報の公開を定めたものだ。公開の範囲や方法は週によって大きく異なるが、多くの州ではインターネットでも公開している。韓国では官報やインターネットで公開する制度が、英国では学校関係者に提供する制度がある。

子どもが犯罪被害にあうことをおそれ、同じ地域に暮らす人の性犯罪歴を知りたいとする気持ちは、一人の親としてわからなくはない。しかし、冷静に考えてみると、情報公開により犯罪の未然防止が保証されるわけではない。それにもかかわらず、性犯罪歴者に与える損害(プライバシー侵害、更生の妨げ等)が大きすぎる。法務大臣がメーガン法導入に関して「格別の慎重さ」を要するとしたゆえんである。そもそもこれを導入した国々では、子どもに対する性犯罪の減少に効果を上げているのか。逆に性犯罪歴者を追い込み、潜伏化・凶悪化させないのか。近隣に性犯罪歴者が暮らすことを知った住民は、どんな行動にでるのか。そして、こうした管理強化は一人ひとりの人間にとって幸せなのか。

冷静に、そして想像力を働かせて「地域社会は犯罪とどう向き合うか」という難問に取り組みたいものだ。(2005/03)

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