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2005.01.22

コラム:自己責任論と年金未納問題

 イラクで人質になった日本人が無事に解放されたとき、国内では「自己責任」を口実にした人質や家族に対する誹謗中傷があふれかえりました。コメントするのもバカバカしいかぎりの内容でしたが、そんな「論」ともいえない言いがかりが、社会的にあっという間に過熱したことに私は「危うさ」を感じました。「自己責任」論にはいろいろなとらえ方がありますが、私は権力による典型的な情報操作だと理解しています。人質になった人たちは武装勢力といわれるイラクの人たちと接して、いろいろな話を聞き、考えたはずです。自衛隊に「従軍」するマスメディアの記者たちが絶対に伝えないイラクの人たちの言葉を、彼らが伝えてくれることを私は期待していました。しかし、そのとき「自己責任」論の嵐が吹き荒れ、彼らは言葉を発する機会を奪われました。確かに最近になって人質だった人たちが発言し始めています。しかし、「自己責任」論という情報操作をした側にとっては、もはや終わったことであり痛くはないでしょう。第一に解放直後というニュース価値としてのピークが過ぎたこと、第二に「自己責任」論の効果で市民に偏見が定着し発言の重みが軽くなったこと、などがその理由です。
 そして、年金改革に関連した保険料の未納問題が噴出し、一時は今年の流行語大賞獲得かといわれた「自己責任」論もいまはすっかりと下火になってしまいました。新聞やテレビは寝てもさめても「未納」一色になっています。私はここにも別の脈絡での情報操作の匂いを感じています。坂口厚生労働大臣が問題にするなど、ここに来てようやく注目されるようになりましたが、相次ぐ未納問題の発覚には社会保険庁のもつ年金被保険者データの漏えいがあります。辞任のきっかけとなった福田前官房長官の未納問題を報じた「週刊文春」は、スクープ記事の冒頭で 「衝撃の情報は、ある厚生労働省関係者からもたらされた」としています。 また、同誌は「小泉首相は、後に発覚することになる、 菅代表の年金未加入問題を知っていたのではないか」 との官邸担当記者の話を紹介しています。今回は未納という「悪」を暴いたのだから、 内部告発として保護されるべきなのかもしれません。 しかし、それが政治家の不実さに対する個人の義憤に基づくものなら理解できますが、 「年金官僚への批判かわし」「改革論議の争点ずらし」を企図したものであれば、「官」による典型的な情報操作に他なりません。現に年金問題についての市民的関心は未納問題に一気にズレてしまいました。ここにも「自己責任」論のときと同種の「危うさ」が潜んでいます。
 「自己責任」論と未納問題とはまったく別のものですが、実に多くの市民が情報操作した側に実に簡単に乗せられてしまったこと、過熱する中で自己責任や年金改革の本質をめぐる論議が吹き飛んでしまった点はまったく同じです。しかも。それが瞬時に強大な「世論」となってしまったことに、私は底知れぬ恐ろしさを感じるのです。小泉首相の未納発覚と同時に北朝鮮訪問が発表されました。今度は拉致被害者の家族帰国をめぐって、マスメディアも市民も功労者(?)の小泉首相をたたえるのでしょうか。実に熱しやすく、醒めやすく、忘れっぽい私たちの足元がみられている気がします。
 「危うさ」はマスメディアがおかしくなっている証拠でもありますが、私たち市民自身の責任でもあります。物事の本質を考えられるよう問題提起する市民メディアを、そろそろ本気になってつくり始めなければならない時代なのかもしれません。
(2004/5/17執筆)

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